インド 黄金寺院
コロナ禍の影響も落ち着きをみせ、徐々に日常が戻ってきた今日この頃。
国内・国外問わず人の流れが通常に戻ってきした。街中でも外国からの観光客を目にする機会が増えてきたこともあり、どうやら私もそろそろ海外に行きたいという病気が発症してしまいました。
この病はまだ踏み入れたことのない土地に立ち、自分自身が圧倒的な異物として海外の空気に触れた時に完治する特殊な病気です。
さて今回は私が過去に行った場所の中でもなかなかニッチな観光地、1日に10万食を提供するインドの黄金寺院を紹介したいと思います。
この場所は家族やカップルの旅行先、バカンスを楽しむといった目的には不向きの場所ですので、そういった場所を探している人はすぐにこのブログを閉じることをおすすめします。
今ままで感じたことのない衝撃が欲しい、そんな物好きな旅を好む人たち向けの次の目的地におすすめしたい一癖ある場所です。
さて前置きが長くなりましたが、早速本題に入りましょう。
1日10万食ってどういうこと?
アムリトサルの黄金寺院「ハリマンディル・サーヒブ」にはランガルという無料食堂があります。ここでは言葉の通り1日に10万食の食事を提供しています。
誰に提供しているのか
ここでの食事は誰に対しても分け隔てなく提供されています。
このことはインドのお国柄を考えると驚くべきことですが、身分、性別、年齢、国籍、宗教、
その他あらゆることに影響されることなく誰もが同じ場所で、同じ食事をとることができるの
です。
もちろん私(日本人)が観光客であることは一目瞭然でしたが、一切の躊躇いもなく食事を提供してくれました。 しかも無料です。
食事の手順
インドに限らず多くの宗教施設で共通することですが、まず最初に靴を脱ぎます。
黄金寺院に入る際もそうですが、手や足を清めてから施設に入りましょう。ちなみに頭を覆い隠すバンダナやターバンのようなものが必須ですが、入り口で売っているので持参する必要はありません。
巨大な靴箱に靴を置いたあとは、いざ食堂に移動です。進んでいくと今度は食器を配る係りのおじさんが数名おり、大きなお皿、小さなお皿、そしてフォークなどが配られます。
私の場合は前後に並ぶシク教信者の方たちが親切に手順を教えてくれました。もちろん言語は世界の共通言語、ボディランゲージです。
そこから人の波にのって進んでいくと、まるで体育館のようなだだっ広い場所に行き、そこで全員が横一列にあぐらをかいて座っていきます。
どこに行っても人が多く雑然とした印象を受けるインドですが、この食堂の中はある種の秩序があり、全員が暗黙の了解でそれに従い動いているのが印象に残りました。
いよいよ食事の提供を受けるところに辿り着きましたが、施設内には基本的に何もなく、もちろんテーブルや椅子なんかもありません。
1日に10万食を提供するというだけあって、どんどこ、どんどこ人が入ってきては、次々に食事をすませ、そして次の人に入れ替わる。
私もその歯車の一つの中で食事の提供を待っていると複数人の給仕者(多くはボランティア)が大きな鍋のようなものを台車に乗せて現れたり、バケツとオタマを持った人が次々にやってきます。
現れたと思えば次から次へと両脇に座して待つ人のお皿にドチャッ、ドチャッとすごいスピードで置いていきます。細かいことは気にしないのかお皿から多少溢れるくらいのことはご愛嬌です。同じようにチャパティ係のおじさんが現れ、両手を差し出して待っていると、その手の上にチャパティを放り投げてくれます。
盛られた食事は豆を煮込んだカレーのようなもの、白いお粥のようなもの、チャパティ(薄いナンのようなもの)などがお皿一杯に盛り付けられます。他にも何種類かのメニューがありましたが、これらのメニューを好きなだけ食べることができ、お代わりも自由です。
美味しいの?
正直に言って普通です。普段から美味しいものに囲まれて生活している日本人にとってはお世辞にも美味しいものではないかもしれません。
しかし誰にでも分け隔てなく平等に提供するインドのこのシステムはそのおいしさ以上に、感謝の気持ちで食べるものなのかもしれません。
ルールと注意事項
誰でも好きなだけ自由に食べることができる場所ですが、たった一つだけ守らなければならないルールがあります。
それは絶対に残さず食べ切るということです。基本的に量が多いので少食の人は要注意です。私も食べ切るのになかなか苦労しました。
食べないメニューやこれ以上食べきれないという時にはお皿を覆い隠すように手を乗せれば給仕者はその人を飛ばしてくれますので安心してください。
さて、食べ終わったら周りの流れを見ながら自分でお皿を下げ、最後に清めの水を飲んで終了となります。
ここでの注意点は清めの水は基本的に絶対飲むのが通例ですが、お腹が弱い人は控えた方がいいかもしれません。ここに限らずインドではペットボトルに入ったミネラル水以外は口にしないことをお勧めします。ちなみに私はしっかり飲んで、しっかりトイレと仲良しになりました。
どこにあるの?
黄金寺院(ハリマンディル・サーヒブ)はインド北西部、パンジャーブ州のアムリトサルという都市にあり、パキスタンとの国境近くに位置します。
外務省HPの安全情報では渡航に十分注意してくださいという黄色レベルに定められています。ちなみに2023年時点では一部を除きインドのほぼ全域が黄色レベルになっています。そのため、ここアムリトサルにも観光客はあまり多くはありません。
私の場合はガンジス川での沐浴などで有名な観光地であるバラナシから寝台列車で向かいました。インドの寝台列車はこれでもかというほど緩やかなスピードで進むので、所要時間は約24時間でした。
ようやくのことで到着し、さらに駅から黄金寺院までは駅前に大量にスタンバイしているリキシャーでの移動になります。
どんな人がいるの?
アムリトサルの黄金寺院はシク教の総本山となっています。
そのため現地にいる人の多くはシク教の信者たちです。インドでは少数派とも言えるシク教ですが、その多くが黄金寺院があるパンジャーブ州にいるため、ここでは多くの信者を目にします。
シク教徒の特徴は男性であればなんと言っても頭に巻きつけたターバン、そして立派なあご髭です。もはやあご髭という呼び方で合ってるのかというくらいの量が顔の半分ほどを覆っている人もいます。女性の場合はその多くが(おそらく)サリーを身につけています。
観光客ももちろんいますが、他の有名な都市に比べると圧倒的にその数は少ないです。
特に私が行ったときは他にアジア人(インド人以外の)に会うことはありませんでした。
周辺の観光
基本的には黄金寺院を見てまわるのがメインとなりますが、しいて挙げるならパキスタンとの国境沿いにある門の開閉セレモニーです。
私の場合は宿泊する宿のレセプションから勧められてツアーに参加することにしました。
そのセレモニーは夕方に行われるとのことなので、黄金寺院をしばらく見てまわってから部屋でくつろいでいるとお迎えの車が滞在するホテルにやってきました。
やってきたSUVの中には私以外の観光客7人がすでに乗っており、どうにかスペースを見つけて乗り込むと、お世辞にも快適とは言えないギュウギュウ状態での出発となりました。
正確な時間は覚えていませんが、小一時間程度その状態で移動し、ようやく国境近くの通りにつきました。
通り沿いには小屋のようなものがたくさん建っており、おそらくこのツアー会社と提携しているであろう小屋の一つに入っていくと、国境沿いには個人の荷物を持ち込めないとのことで持ってきた荷物を預けることことになりました。
そんなこと予想もしてなかった私は小さなリュックにパスポートとそれなりの現金、そしてクレジットカードを入れてきてしまいました。
荷物を預けることに不安を感じましたが、せっかく来たのに預けないことには観に行けないので「まぁ何とかなるだろう」とそのまま預けることにしました。
車を置いた場所からしばらく歩くとすでに多くの人だかりができており、国境の門を閉める儀式が始まるところでした。
特徴的な衣装を身につけた警備員が行進し、鼓笛隊の音楽と共にまるでパレードのような雰囲気の中で行われました。
正直な感想としては観ても観なくてもどちらでもいいかなというものでしたので強くはお勧めはしません。せっかく来たのだから観たいという方はありかなと思います。
聖者たちの食卓 Himself He Cooks
最後に、今回紹介したアムリトサルにある黄金寺院を題材にした映画、聖者たちの食卓 Himself He Cooksを紹介します。
この映画はベルギー人監督によって撮影され、2011年に公開されたものです。映画の中では無料で食事を提供する食堂(ランガル)で働くボランティアの生活が映し出されています。映画はセリフ一切なしの完全ドキュメンタリーで、1日に10万食を提供するというその様子がフィルムにおさめられています。
数100年間続くこの施設(食堂)の存在意義は私たちが本来目指さなければならない姿を体現したかのようであり、ただただ映し出される彼らの生活を観ることで色々考えさせられる作品です。
内容は65分の短編なのでちょっとした空き時間にぜひ観てみてください。
ちなみアマゾンプライムでも視聴可能です。